【第三章:風の狩場とカルマの谷 十六】

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【第三章:風の狩場とカルマの谷 十六】

「今回は、彼女に招鳥(オトリ)になってもらいます」  ブラッドが、キアスを示してそう告げた。 「『おとり』って……敵をおびき寄せる囮の事ですか?  それってちょっと酷いんじゃ……」  憤りを感じて、思わずスズが口走る。  キアスは大きな耳をこちらに向けてピクリとさせた。  ゆっくりと立ち上がると、尻尾をピンと立て、「聞いてたわよ」という顔で、たしなめるようにこう言った。 「坊やたちには解らないかもしれないけど、私たちには私たちの、絆と役割があるの。  あんたたちが招鳥役をやるより、遥かに安全で確実だから、私がやるのよ。  無理にやらされてるんじゃないわ。  それにね、ひょっとしたら故郷から捨てられた、可哀そうな存在だって思ってるかもしれないけど、私たちはね、古い世界に捨てられたんじゃなくて、新しい世界に選ばれたの。  ……マルコはそう思わせてくれる大事な存在だから。  彼の役に立てる事は私にとって最高の幸せだし、彼に仕える事を誇りに思ってる。心から」  キアスは「キャッ、言っちゃった」と、前足で顔を隠すようにして尻尾をブンブンと振り始めた。  とたんに、どこからか「聞いてんぞ化け狼! 一人で抜け駆けしてんじゃねーぞ!  オレ様だってマルコへの想いは同じだからな!」と、ヤタガラスのダンテの叫び声が聞こえてきた。 「マルコが聞いてんの知っててよく言うぜ! ビッグマウスでわざとらしいんだよ!」  聞こえてくる方向をよくよく注意してみると、どうやらそれはキアスの首輪に掛けてある、赤黒く光る魔石から響いてくるようだった。 「何よ、私はただ本心を言ってるだけじゃない。  そっちこそ便乗してくるんじゃないよ、この赤トサカのチキン野郎!」  魔石を通して携帯電話のように話せるらしい。  ダンテがどこにいるのかは不明だが、口喧嘩の激しさはいつもと変わらないようだ。 「神聖な狩りの日である上に、子ネコたちの教育上よろしくない。やめるのだ」  静かにマルコの声が同じく魔石から響く。  一羽と一匹は無言になった。  キアスはやや耳と尻尾が垂れている。
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