【第三章:風の狩場とカルマの谷 十六】

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「……ちなみに、キアスとダンテは本当に仲が悪いわけじゃなくて、いわゆる舎弟頭争いというやつを未だにしているだけで、心底嫌いあっているわけではないからね」  ギンコがフォローを入れる。 「シャテイ……ガシラ争い?」  スズがなんだか物騒な単語が出てきたという顔で問う。 「どっちが兄貴分、姉貴分かって事。  魔獣同士はどっちが優位か、順位付けがけっこう大事なんだよ。  普通は年功序列っていうか、長く群れにいた順、つまり先に魔獣使いの元にいた方が先輩って事なんだけど……。  拾われたのはダンテが先なんだけど卵の時で、その後拾われたのが子犬だった、いや子狼だったキアスだから、どっちが先輩だか、今もまだ決着がついてないんだよね」 「私はダンテの卵の時も知ってるけど、ダンテは私が拾われた時の事なんて知らないでしょ?  だいたい産まれた時が私よりも遅いんだから、年齢的にも私の方が立場が上なのは当然でしょ?」  キアスが美しい青のグラデーションの羽を広げて胸を張る。 「はぁ? 拾われたのはオレの方が先なんだから、当然オレの方が先輩だよな?  オレがずっとマルコの懐で大事に大事に温めてもらってたのが羨ましいんだろ?」 「あああ生意気!! 卵の頃に丸呑みにして食べちゃえば良かった!!」  キアスが地面を掻くようにしてその場で何度か旋回した後、上空に向かって吠える。   「まあ、そんな訳で大抵の魔獣の序列争いは口喧嘩というか、ハッタリや言い負かしあいで勝負がつくものなんで、実際に怪我したりする訳じゃないからそんなに気にすることもないんだけど……。  ボクが暫く団から離れてる間に、二人の影響でフーカの言葉使いが荒れてたのには参ったね」  ギンコが感情の読めない声で言う。  たぶん、怒っているのだろう。 「…………」「…………」  ギンコの発する妙な圧力を受けてか、一匹と一羽は黙った。 「まあとにかく、魔獣使いと魔獣たちとは、血を分けた絆のようなものがあるんですよ。  だから、そちらの世界で言う『奴隷』や『家畜』とは、まったく違う関係だと理解していただけると嬉しいです」  ブラッドが少し困ったように笑った。
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