【第三章:風の狩場とカルマの谷 十七】

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「では授業で習った岩イノシシの特性を復習しながら、今回の罠の張り方を説明するよ」  ブラッドが森の中へ続く道に向かって歩き出した。  太い枝の間から光を落とす木々の間には、キラキラと光る白い植物の綿毛や、くるくると舞うプロペラのような種が飛んでいる。  その中を無数の赤トンボが飛び交い、風が止めば思い出したように黄色い蝶が姿を見せる。  たくさんの動植物が生命を繁栄させる、豊かな森なのだ。 「風下で行動するのは当然ですが、会話も小さく最小限に。  彼らは鼻も利けば、耳も良いのです」  風は魔境のある、白い山脈から吹き付けてくる。  標高の割には多種多様な植物の生える、昆虫や動物たちにとっても食料が得やすい豊穣の森のようだ。  この世界全体の気候も暖かいらしいのだが、地盤などにある自然石の特性も影響しているらしい。 「岩イノシシは、地中の動植物を中心に食するので、雪の深く降り積もる場所では生息できません。  そのため春から夏は魔境寄りの森林を中心に暮らしていますが、秋から冬にかけては、より脆弱な個体程、早く南下してきます。」  ブラッドは、木々の間から僅かに山脈や、白い石道が見える高台に皆を案内し、そちらを指し示した。 「魔境の下にも豊かな森がありますが、それを白い石道、白道(びゃくどう)がこちらの森と二分していますね」  ステッキで一本の道をなぞるようにして言う。 「秋から冬は繁殖期のため、彼らの行動範囲が広がるのですが、雄は発情した雌を探してかなりの距離を歩き回ります。   強く大きい雄ほど有利なので、雌をパートナーに得るための戦いに勝った勝者は魔境側の森に留まり、彼らの普段の居場所の中で行動しますが、戦いに敗れた弱く小さな雄などは、雌を求めてさらに南下してこちら側の森へ向かってきます。  彼らの方から我々の居住区まで侵入してくる事は滅多にありませんが、森の中で突然出くわした時などには、突進して来る事もありますから、その牙には注意が必要です。  白道を超えて来た個体を狩る事により、森の動植物を守り、強い個体は残しつつ、生息区域と頭数のコントロールを行う。  これが『岩イノシシ狩り』の目的と意義です」
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