【第三章:風の狩場とカルマの谷 十三】

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 やがてそれは、ビシビシという音を立て、鱗状の岩で出来たボクシンググローブのように、オウコの右腕で固まった。  まるで灰色の小さな龍が巻きついているようだ。 「老師レベルになると、何もないように見える所から何でも生み出せるが、俺みたいなタイプはこうやって、そこにある物の力を借りた方が早いな」  オウコはそう言って、軽々と巨岩と化した右腕を振って見せた。 「その枝や葉もそうだが、石や砂にすら意識は宿る。  だから、その力を貸してくれる対象への感謝を込めて、念じるんだ」 「まあこういう棍棒とか盾みたいな使い方は、動かせる筋力のあるオウコだから出来るんだけどね。  大地や岩を操る『地』や『山』の力は、本来は防御壁を作ったり、獲物や魔獣の足止めに使ったりすることが多いかな」  ギンコが苦笑しながら言う。 「もちろん、例えば足場を作って逃げ道を確保したりとか、固重化して武器にする場合もあるけどね。  どの属性の力も、時と場合、そして組み合わせと使い方によって、武器にも防具にもなるからね」  スズはマヌルが自分に言った、『オーラ』の緑と青の色から、『山』の気と『天』の気が馴染みやすく、防御と逃走の才能に恵まれているという言葉を思い出した。  もしかしたら、こちらの方なら出来るのかもしれないと、小枝を地面に軽く刺し、先程のテンやオウコの姿を思い浮かべた。  そして魔神輪をはめている右手でそれを持ったまま、小枝が小さな土の山に埋まっているイメージを、「力を貸してくれてありがとう」と、感謝の気持ちを込めて頭の中で描いた。  すると、河原の石の間から小枝を上るようにして、シャリシャリという音をさせて土や砂利が集まってきた。  だが、スズが思わず「嘘だろ!」と言った瞬間に、集まってきた土や砂利は地面に落ちてしまった。 「惜しい!」ギンコが叫ぶ。 「だが、マレビトなのだし、最初にしては上出来だろう」オウコがゆったりと腕を組む。  そして気がついたように、自分の右手を軽く払うと、魔神輪を覆っていた岩の龍はサラサラと砂のようになり、風に乗って河原の土に戻っていった。
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