【第三章:風の狩場とカルマの谷 十三】

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(まず呪文を覚えたり、言葉の意味を理解するのに時間がかかるんですけど)  という顔で見つめるスズに気がつき、ギンコはこう付け加えた。 「まあ老師たちみたいに昔から伝わる呪文もカッコいいけど、ようは自分が集中できるのが一番大事だから、自分なりに覚えやすい呪文を作っても良いんだよ?」  いきなり自分の呪文と言われてもと、さらに悩むスズに、オウコが助け舟を出した。 「古くから伝わる呪文でも簡単で、効果も高いのに、『色即是空 空即是色』というのがあるぞ」  スズにもお経か何かで聞いたことのある言葉だ。 「しきそくぜーくう、くうそくぜーしき。 『色』、この世界の色を持ち、形ある全てのものは、『空』、宇宙の何もない、元の空間に還る。  そしてまたその何もない空間から、形あるものが生まれてくる、ってことだね」  これなら聞き覚えもあるし、意味も簡略化されていて解りやすい。  スズは魔神輪に触れながら頷いた。  そうして何度か、呪文を唱えながらイメージを固定化することを繰り返すうちに、スズにもコツが掴めてきたようだった。  集まる土も、最初はアリの巣穴の周りの山ほどの大きさだったが、徐々に角砂糖程の大きさと硬さになり、最後には両手で砂をかき集めたように、小枝を支えるのに充分な物になっていた。  火や水など、他の属性も試してみたかったが、この日はそれで時間切れとなった。  昼食を経て、午後は慣例として、二時間程、ネコたちの昼寝の時間だったからだ。  もっとも、興奮したスズにとっては、とても眠れる状況ではなかった。  彼にとっては、地球では決して得ることの出来ない魔法の力を手に入れたような、忘れられない一日となったのだ。
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