【第三章:風の狩場とカルマの谷 十四】

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「ですから、これだけは絶対に忘れてはいけません。  怒りからでも執着からでもなく、その命をいただくと決めたのなら、静かな心で。  いかに相手を苦しめずに止めを刺せるかという事が、私たちが発展させてきた狩りの技術の真価なのです。  この教えを未来永劫忘れることのないよう、この谷は『カルマの谷』と呼ばれているのですよ」  ウルルはそう話し終えると、ようやく微笑みを見せた。 「さて、じゃあ次はみんなの持ち物が揃っているかどうかチェックしましょう!  みんなの狩りセットの中身を机の上に出してちょうだい!」  ウルルの声に、子ネコたちとスズは、三角形のランニング用の小型バックパックのような物を取り出した。  この授業を受ける前に、スズはこの郷の神庫(ほくら)で、子ネコたちと共にその『狩りセット』を渡されていた。  X型のしっかりとしたショルダー部分の前には魔切(まきり)という小刀、腰裏部分のベルト、荷物入れの下部分には、鉈山刀(ながさ)という包丁と(ナタ)の間のような山刀が鞘ごと備え付けられている。  魔切は全体が二十センチ程、鉈山刀は三十センチ程の刃物だ。  準備する時にギンコから教えてもらったのだが、どちらもよほどの緊急時以外の時には武器ではなく、山道での植物の刈り払いなどに使用する物らしい。  バックパックの中身は、スズがこの世界に来たばかりの頃に渡された旅のセットと同じ物もいくつかあったが、マレビト用にと特別に渡されたアイテムもあった。 「『稀頤丸(まれいがん)』……これって何が入ってるんですか?」  スズは小瓶の中の黄色い薬丸を軽く振って尋ねた。
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