夢のあと

11/15
24人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
篤樹と会うのは、主にわたしの家。 期間限定カップルなので、誰にも知られることなく期間終了を迎えるのが暗黙の了解だ。 手を繋いで出かけたり、おいしいものを食べに行ったりはできないけれど、二人で料理をしたり、高校の頃の思い出話にふけることも新鮮で楽しかった。 時間がない。 そう痛感していたわたしたちは、時間を惜しんでよく会った。 夜中、急に時間が出来たからと、今からいい?という連絡を寄越すことも何度かあった。 わたしは、部屋で過ごす時は邪魔な前髪をポンパドールにしていた。 「いつもは知的なイメージだけど、この髪型にするとすごく子供っぽいかわいい感じになる。こんな姿、オレだけが見てると思うと得した気分だね」 昔から変わらず、篤樹は素直でまっすぐなままだった。 褒めてくれたこともだが、篤樹が年月を経ても変わっていなかったことも嬉しかった。 あの頃、過ごせていたかもしれない時間を取り戻すように、存分に篤樹の名前を呼んで、キスをして、顔を見て笑って。 いずれは消えてしまう夢の時間。 それでもいい。どうせ夢なんていつかは忘れてしまうものだから。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!