第一章 日常

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 ハッ、ハッ、ハッ、ハッ。  息を弾ませて、軽やかに走る。  タッ、タッ、タッ、タッ、タッ、タッ、タッ。  靴音がテンポのよいリズムを刻む。  ハッハッハッハッ。  髪の毛が項を優しく叩く。顔を撫でていく風が心地よい。  秋晴れの朝。  一年で一番好きな季節だ。  これが遅刻しそうな登校シーンでなければ、もっと良かったろうに。  星占いでは、”今週の運勢は最高!!”ってなってたのに。  幸運の女神は、私の頭上をスルーしたらしい。  スマホがクッションの下になって、朝のアラームが聞こえなかったし、  昨日夜更かししたのか、両親とも朝寝坊したし、  まぁ、自力で起きれなかったのが、一番いけないんだけど。  タッ、タッ、タッ、タッ。  学校まで、あと信号二つ。頑張れ私、間に合うかもしれない…。  と、その時。  道路わきに止まったタクシーが目に入った。  車の側に、苦虫を噛んだ顔の運転手と、困り顔で幾度も頭を下げるお婆さんがいる。  その側を駆け抜け、10メートルほど進んだところで、私はその場走りになる。  どうしよう。遅刻しそうなんだけど…。  でも、困ってる人を見ると何かせずには居られないんだ、わたし。
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