23人が本棚に入れています
本棚に追加
急いで逆戻り。
「お婆ちゃん、どうかしたの」と声をかける。
「ん!?。 あんた、この人の知り合い?」
運転手が先に返事をする。
「いいえ、違います。でも…、何かあったんですか?」
「この人、お金払う段になって、財布を忘れて来たって言いだしてさ…」
ごめんなさいねぇ、お婆さんが、申し訳なさそうに頭を下げる。
「それじゃ、私が代わりに払います。幾らですか?」
そんなことして貰うわけにいきません。とお婆さんが遠慮する。
運転手は不愛想に金額を告げる。
「分かりました、じゃあこれ」
と言われた額を差し出した。
それから、お婆さんの方を振り返り、
「お婆ちゃん。お金がないと、帰りが困るでしょ」
と財布の中身を全て渡す。
「ありがとう。お嬢ちゃん。必ず返します、名前を教えて頂戴」
「いいです、いいです。それに、いま急いでるんで…」
私は、学校に向かって走り出した。
お婆さんが私を呼ぶ声が次第に遠ざかる。
嗚呼。いい事したあとは気分が良い。
今日の空みたいに晴れやかだ。
って、それどころじゃない。これじゃ完全に遅刻だよ。
私は、学校へ向かう足の回転を速めた。
最初のコメントを投稿しよう!