第一章 日常

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 誰もいない廊下を忍び足で歩いて、教室へ向かう。  もう、一時限目が始まっている。  クラス担任でもある陽子先生の古典の授業だ。  これ以上ない丁寧さをもって、教室の後ろの引き戸を開ける。  気の利かない引き戸が、ガタピシと盛大な音で歓迎する。  クラス全員の注目の中、教室に入る。 「相川さん。また、遅刻ですか?」  陽子先生の落ち着いた声に対し、立ったままで小さくハイと返事をする。 「また、困ってる人が居たの?」  陽子先生の発言に、生徒たちの笑い声があがる。  私は、顔を真っ赤にし、ボリュームを一杯に絞った声でハイと応える。  最初の頃は、今日のようなことがあると正直に事情を説明してきた。けれど、その度に クラスのみんなに笑われるので、最近は何も言わないと決めている。 「遅刻は大目に見ておくから、席に座りなさい」  ああ、よかった。陽子先生はいつも優しいなぁ。大感謝。  こんな風にして、私の一日は始まる。
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