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「あれ!?」
と友稀が疑問の顔をつくる。
「心美。今日は、イチゴ牛乳はどうしたの? お気に入りなのに」
あぁ、いつも目ざといな友稀は…。
「えーとぉ」と私は言いよどむ。ちょっと言いにくいことなんだよな。
でも、胡麻化しても友稀には分かっちゃうだろうし、そもそも私は嘘が苦手だ。
「お金…、持ってなくて…」と応えると
「えーっ!?」と友稀が驚くが、次の瞬間には怒った顔になり
「あー、そういう事。心美! また誰かにお金を巻き上げられたのね、これで何回目?」
と小言を言われる。
ほんとに頭の回転が速いな友稀は…。何でも御見通しだ。
「…そうじゃなくて。財布を忘れてタクシーに乗ったお婆さんが居たんで貸してあげた」
と言い訳をしてみる。
「貸したって…。そうやって、見ず知らずの人にお金渡して、返ってきた試しが無いじゃ
ない」
やっぱり、友稀に呆れられた。
「それは、いつも名前を言うの忘れちゃうから。きっと、相手の人も私を探してくれてる
と思うんだけど…」
「全く。心美は人がいいんだから。美影さんも、そう思うでしょ」
話を振られてなんと応えるのかと、四つの瞳が典子に注がれる。
その視線に気圧されたのか、典子が消え入りそうな声で
「心美には…、困っている人を見つける才能があるんだと思う」
とつぶやく。
その答えが、全く見当外れだったので、私と友稀は顔を見合わせて笑った。
これが、いつもの私たち昼食の光景。
この光景が私の日常のシーンになってから、半年ほど経っている。
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