3人が本棚に入れています
本棚に追加
コキコキコキコキ進みの遅い車椅子がいらだちを助長してしまう。
しかもそんな私にさらなる追い打ちがやってきた。
追い打ちが歩いてくるなんてことがあるのかと驚愕する。
前方から駒枝先生がテクテク歩いているのだ。
踵を返すように私は窓際に身を寄せた。
景色を眺めてやりすごそうという作戦だ。
我ながらなんて性格が悪い。
嗚呼、日が沈みかけてきている。
「挨拶くらいしてください。俺は患者でも容赦しませんから。」
なんということか、隣に先生がきてしまった。
押し黙っているとさらなる言葉が降ってきた。
「貴方は教壇に立っていた人でしょう。それとも根っからの変人体質なのですか? 小泉先生におしるこを渡そうとしている心配りいらいから、信頼してはいんたんですけども、それは嘘ですか?」
ただでさえ身長が高いこの人が言うからやけに言葉が高圧的に落ちてくる。
「…たまたま返しそびれたんです。先生こそ酷いじゃないですか…私がそうしようとわかっていた癖におしるこ取り上げちゃうなんて。」
「取り上げる? まさか、ちゃんとあれは小泉先生に渡しましたよ。」
「え。何だ、そうだったんですね。でも渡しておきますねとか言ってもいいんじゃないですか?」
「…だって、ああでもしないと貴方は言うことを聞かないでしょう。俺、なんかわかるんですよ。だって貴方が教壇に立ってるときとか知ってますし。」
「え? それっていつ?」
「高校生の時ですかねー。さあ、日が暮れるので帰りましょう。」
駒枝先生が車椅子を押してくれている最中、ずっと考えていた。
この人が高校生の時に私はいつかのタイミングで知り合っていたらしい。
ずっとそれがいつなのか不思議でたまらなかった。
だって私は高校の教壇には立っていなかったから。
「(駒枝先生…謎すぎる。)」
最初のコメントを投稿しよう!