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時刻は13:00。
春風さんは昼寝がしたいと言って部屋で眠っている。
カルテには杉野春風のフルネームがつづられている。
この紙っぺらは誰よりも正直者だ。
歳も性別もプロポーションの数値でさえもはっきりと書かれてしまっている。
どこか変わっている彼女だけど嘘はつかない。
僕が小学生の時からあの人は身近にいたのだから、何となくそういう性質何だろうなと幼心に感じてはいた。
今時珍しいと思う。
でも今日はたまげたな。
俺がランドセルをしょっている時に春風さんはコンプレックスに蝕まれていただなんて。
あの赤いスカーフのセーラーの中に渦巻いていた呪いをもっと早く気づける男でいたかったな。
「…はぁ。」
考えても仕方のないことだ。
当時の僕は黄色いワッペンにぴかぴかランドセルのホヤホヤ小学生でしかなかった。
そんな出来立ての奴が女心を察すれるなんてのもまた可笑しな話なわけだ。
あの時の僕はアニメのあんころまんを見ながらハンバーグをパクパク食べている典型的なちびっこで、春風さんは名門中学の秀才で近所でも評判な優等生だった。
母にはいつも春風さんを見習いなさいと口酸っぱく言われていたような気もする。
…もう昔のことだから記憶が曖昧なのも仕方がない。
だってもういいじゃないか。
こうして人のケアを仕事にできたんだから。
僕はゆっくりと目を閉じた。
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