11人が本棚に入れています
本棚に追加
「米田って、あんた漫研の」
「はあ……。そうですが」
ぽそりと答えると整えられている眉がきつくつりあがっていく。人体とはよくできているものだ。眉で気に入らないが伝わる。
「いこ。近藤。こいつ別クラスだったし話し合わないヤツだから」
近藤と呼ぶイケメンくんの腕をとって引き寄せる。わかりやすい人だ。どうでもいいが香水が臭い。料理の邪魔だ。
「そういうトコが吉田の悪いトコだ。勝手に決めてんじゃねーよ」
先ほどとはうって代わり、きつい声音に驚いて顔を見てしまった。
「ごめんね、米田さん。こいつ昔っから口悪くてさ」
「――いえ、近藤さんが謝ることじゃないですから気にしないでください。どうぞもどって。私はそろそろ帰りますし」
「え? いなよ。二次会も一緒に行こう? 友達もいっしょにさ」
「いえ、どうも来てないみたいなので」
「ほらぁ! こいついつもひとりでいたし、漫画とかアニメとかきっしょい……」
「うるせーっていってんだろ」
組まれた腕を振り払いながらいった。本気で不快に感じている声だ。
「おまえさ。そうやって人のこと決めつけんのやめろよ。そういうの嫌いなんだ」
吉田と呼ばれた人の顔が赤くなり――醜く歪んだ。
「……なによ! 多少綺麗になってるけど、こいつなんて前髪垂らしてダサくて暗くて……! 近藤って昔っから趣味悪い!」
叫ぶようにいい残して背を向けた。ヒールの高い靴音が聞こえそうに歩いて行く。
――あの人、近藤くんが好きなんだ。卒業してからいまでも。
わかってしまった。そのくらいのことは理解できる程度に歳を重ねてきた。なんて不器用な人なんだろう。私と違って今日を楽しみにしていたのだ。それを思うと申し訳ない思いがする。
「ごめん。大声だしちゃって」
近藤くんは申し訳なさ気に謝った。
「ううん。気にしないで。でも――」
続きを待つように黙し、伺うように見つめる。
ああこの人はいい人だ。素敵な人なのだ。
「ゆっくり吉田さんと話してみて。きっと寂しい気持ちだから」
近藤くんは黙り込んだ。
最初のコメントを投稿しよう!