愛は萌えで十分だ

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「米田って、あんた漫研の」 「はあ……。そうですが」  ぽそりと答えると整えられている眉がきつくつりあがっていく。人体とはよくできているものだ。眉で気に入らないが伝わる。 「いこ。近藤。こいつ別クラスだったし話し合わないヤツだから」  近藤と呼ぶイケメンくんの腕をとって引き寄せる。わかりやすい人だ。どうでもいいが香水が臭い。料理の邪魔だ。 「そういうトコが吉田の悪いトコだ。勝手に決めてんじゃねーよ」  先ほどとはうって代わり、きつい声音に驚いて顔を見てしまった。 「ごめんね、米田さん。こいつ昔っから口悪くてさ」 「――いえ、近藤さんが謝ることじゃないですから気にしないでください。どうぞもどって。私はそろそろ帰りますし」 「え? いなよ。二次会も一緒に行こう? 友達もいっしょにさ」 「いえ、どうも来てないみたいなので」 「ほらぁ! こいついつもひとりでいたし、漫画とかアニメとかきっしょい……」 「うるせーっていってんだろ」  組まれた腕を振り払いながらいった。本気で不快に感じている声だ。 「おまえさ。そうやって人のこと決めつけんのやめろよ。そういうの嫌いなんだ」  吉田と呼ばれた人の顔が赤くなり――醜く歪んだ。 「……なによ! 多少綺麗になってるけど、こいつなんて前髪垂らしてダサくて暗くて……! 近藤って昔っから趣味悪い!」  叫ぶようにいい残して背を向けた。ヒールの高い靴音が聞こえそうに歩いて行く。  ――あの人、近藤くんが好きなんだ。卒業してからいまでも。  わかってしまった。そのくらいのことは理解できる程度に歳を重ねてきた。なんて不器用な人なんだろう。私と違って今日を楽しみにしていたのだ。それを思うと申し訳ない思いがする。 「ごめん。大声だしちゃって」  近藤くんは申し訳なさ気に謝った。 「ううん。気にしないで。でも――」  続きを待つように黙し、伺うように見つめる。  ああこの人はいい人だ。素敵な人なのだ。 「ゆっくり吉田さんと話してみて。きっと寂しい気持ちだから」  近藤くんは黙り込んだ。
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