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洋服店に連れていかれ、あれこれと指示を出すスタイリストさんは少しでも楽しく興味を持ってくれればと組み合わせをして「この色合いなどどうでしょう。清楚な印象でしょう?」と聞いてくれるが、すいません。猫に小判です。一ミリも興味はございません。
「それでいいです」
ぎこちなく笑って試着室にそそくさと逃げ込んだ。全面鏡のまえで下着一丁になった姿はまぬけだ。おしゃれ人は気にならないのだろうか。
――めっちゃ腹でてんな……。
そんな感想しか湧いてこない。
「サイズはどうでしょう?」
絶妙なタイミングで声がかかり、仕方なく着替えた服で簡雍ドアを開けた。
「よく似合ってます! 丈もぴったりですね。靴ですがあまりヒールが高くないほうがよいとのことでしたので五センチのものにしました。三足ともかかとが幅広でしっかりしていますし、色味が濃いので足元がしまりますよ。バックストラップですので上品さ」
「はい。履きやすそうなのでこれがいいです」
途中で止めてごめんなさい。せめて笑顔だけは絶やさず、一足目を指した。
そのまま系列のヘアサロンへ連行され、またもやああだこうだと説明を受けたが「切っても刈っても構いません。お任せします!」と半ばやけくそでいった。
『殿。ご存分に』の気分だ。
カラーリングとやらを施され、頭部を熱せられ続けた。洗濯ものがよく乾きそうだ。輪っかのリングが頭上で回っている。
――ああ、あの子だったら天使の輪も似合う。
目を閉じて壮大な萌えを想像し、にやける顔を某管理官のように苦渋に満ちた表情で耐えきった。洗髪にドライヤー、毛先をくるくると巻かれヘアアイロンの使い方を説明されるも、そんなものを買う気はゼロだ。
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