愛は萌えで十分だ

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「どうですか?」  カットクロスを取り払われた鏡のまえには、やたら明るい色の髪がふわふわとしている。服装と違和感はないので多分これでいいのだろう。 「毛先は遊ばせていますので、手で押さえないでくださいね」  ――鼻に入ったらくっそ痒いだろうな。 「気に入りました。ありがとうございます」  軽く頭をさげると案の定、頬にさわさわと刺さってうっとおしい。 「邪魔じゃあ!」と叫びたくなるのを堪えて店員に笑顔を向けた。最後にネイルを施され、ようやく推し作品に関連する絵を指先に入れてもらった。何が幸せってそこだ。 「すごく嬉しいです!」  指に推しを住まわせていると思うと浮足立つ。  エステにヘアメイク、ネイルまで終わらせて「楽しんできてくださいね」と笑顔で見送られ家族と待ち合わせろしている写真館へ向かった。母はともかく祖母が待っている。 『杏子ちゃんとお写真が取れるなんて嬉しいよ。綺麗になってきてね』  今朝、嬉しそうに見送ってくれた祖母を思うと最後の孝行だと思い、これでいいのかと不安になりながら自動ドアをくぐった。 「……んまぁ……!」  母はそういったきり絶句し、口を覆う。父はそのまま絶命したかのように微動だにしない。取り敢えず息をしろ。 「杏子ちゃん。とっても綺麗よ。本当に綺麗」  両手をにぎりしめる祖母の目には涙が浮かんでいる。  それだけは素直に嬉しかった。しかしここは写真館であって結婚式の新婦の間ではないのだが全員が揃って感激の坩堝だ。水は差すまい。  家族揃って撮った写真が渡され、祖母は大切に手にしてバックにしまった。後日引き延ばしたものを額に入れて送ってくれるという。どこに飾るのかと思うが、もうどうとでもしてくれればいい。あとは同窓会だけだ。  家族と別れて会場へ向かった。転んでもしたら台無しでしょ! と母がタクシー代をくれたので、ワンメーターだけ乗って電車で向かった。  ――新刊代ゲットぉ!  どこまでも価値はそこにしかない。
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