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1.こんにちはハニーライダー
神様のギャンブル・ルーレットが、落ちる。
そうして与えられたものに、俺はこの社会の支配者になれると確信した。
***
「二人なんだけど、席空いてる?」
ドアベルが軽快な音を奏でて、現れたのはスーツを着た男が二人。紺のスーツに酒臭さが絡みついていることから、飲み屋で一杯引っかけてきたのだろう。
「いらっしゃいませ。ここ、どーぞ」
俺は明るく声をかけて空席に案内する。
男たちが席に着いたところで、スキンヘッドとサングラスを組み合わせた男が厨房からひょっこりと顔を出した。繁華街の夜にふさわしい威圧感を纏う、この店のマスターだ。
サングラスの奥にあるだろう瞳を光らせ、客たちがこの店の真実を知っているのかどうか確認しているのだ。品定めを終えると、俺だけに聞こえる小さな声量で呟いた。
「流加、頼むぞ」
ハズレ、ってことらしい。男たちの対応を俺に任せて、マスターこと古狼は厨房に戻っていった。
まあ、そうだろうな。俺だって客の性ぐらい見抜ける。こいつらはハズレだと思っていたよ。
面倒だなと思いながらも、雇い主に任せられたら断れない。覚悟を決めて、営業スマイルを浮かべた。
繁華街の外れにあるバー『ウルフライダー』。俺はここの従業員だ。
でも従業員を名乗っておきながら、カクテルは作れない。
出来ることは、おつまみのナッツを皿に盛って提供するのと、受けた注文を古狼に伝えるぐらい。店で働く時間だってまちまちで、外に出ていることがほとんど。店が暇な時は控室で寝ている。
こんな役立たずでも働いていられるのは、この店にもう一つの顔があるからだ。それがなかったら、今頃俺はクビだろうな。
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