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「サーヤ姐さん、生きてる?」
小声で聞いてみると、深紅の爪が五本。おずおずとあがった。
「……かろうじて」
「どしたの。ヤりすぎて疲れちゃった?」
からかうと、どんよりと深いため息が返ってくる。
「……そうだったらよかったんだけどね。ガーリックライスもおかわりしてるわ」
「じゃあ何。満足できなかった? それとも好みじゃない相手だった?」
俺たちは身体と時間を売ることを仕事としているが、その中には嫌な仕事もある。例えば相手と身体の相性が最悪だとか、付き合いきれない特殊性癖だとか。俺たちを買ってくれるお客様全員が神ってわけじゃない。イヤな夜だってある。
サーヤの疲れている様子からお仕事のハズレくじを引いたのだろうなと思っていたのだが、返ってきた言葉は違っていた。
「満足できなかったのよ、心がね」
同時に顔をあげたサーヤの頬には涙の跡が残っていた。何度もブリーチして色を抜いたスカスカの金髪が頬を拭うように流れ落ちていく。
「……また?」
仕事の後にサーヤが泣くのは初めてではない。よくあること。
最初は驚いていた俺も今では慣れてしまって、声に呆れがにじみ出ていた。
「すっごく好みだったの。相手はアルファで、一部上場企業の役員。顔もよくて年齢も許容範囲」
「大当たりじゃん、それ」
「でしょ。今秋一番の当たりくじ」
俺が知る限り今秋一番の当たりくじは三人目。それもう一番じゃないだろ。
でもあえて言わずに黙っているとサーヤが続けた。
「……だけど違ったの。感じなかった」
「身体の相性が最悪だった、ってこと?」
サーヤは首を横に振って、それから俺を見た。
あんたも知っているでしょ、と言わんばかりの真剣な眼差しだ。
「……運命を感じなかった」
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