1.こんにちはハニーライダー

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 三十歳のお姉ちゃんが朝っぱらから運命というのだから、飲み物を口に含んでいたら吹き出していたかもしれない。笑っては失礼だと堪えるも、たぶん、口元は緩んでいた。 「運命の(つがい)じゃない。結ばれる運命じゃないって、わかったの」 「何それ、霊感? オメガ感?」 「あんただってまもなく焦るわよ。三十歳を超えてごらん、道行くアルファ全員に名刺配りたくなるから」 「あと十年あるからへーき。それに番になりたいって思ってないし」  それでもサーヤの表情は暗く、普段の色気たっぷり赤い口紅もほとんど落ちて乙女の顔つきになっていた。そして切なげに呟く。 「番に……なりたい」  (つがい)は俺たちオメガにとって重要なものだ。簡単にいえば結婚みたいなもの。  番になれば、オメガは番相手だけを愛して、番相手だけを受け入れる。  様々なアルファを引き寄せる発情フェロモンも番相手にしか効かなくなるので、うっかり引き寄せられちゃって狼のように襲いかかってくるアルファもいなくなる。オメガの自衛にもなるのだ。  でも一番の理由は自衛ではなく精神の安定なのだと、いつだったかのサーヤが言っていた。  番相手がいる、自分には決まった相手がいるのだと思うだけで気持ちが落ち着くそうだ。  たくさんの人に愛を捧げるのは疲れてしまうから、心から安心出来るたった一人に愛を捧げたいらしい。
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