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少しの間をおいて、実月の唇が動く。
「もう、興味ありません」
淡々と告げた瞬間、古狼の眉間に深い皺が刻まれ、つるつるスキンヘッドに太い血管が浮き出たような気がした。
「ほう? いい度胸だなクソガキ」
「いやだなあ、こう見えても二十八歳です」
「俺より年下は全員ガキなんだよ」
長い付き合いというのもあって、古狼の声音に秘められた怒りが伝わってくる。めちゃくちゃ怒っている。俺もサーヤも手を出せないぐらいほど高まった古狼の怒りが実月に向けられているのだ。
だというのに実月は動じない。こんな時でも平静でいられるなんて、肝が据わりすぎだろ。
部屋の空気が張り詰めて、重たい。仲裁に入った方がいいか、なんて考えていると古狼が動いた。
「……これ、飲み終わったら帰れ」
そう言って、古狼は俺たちの前にグラスを置いた。
中は琥珀色のハニーライダー。甘い香りが漂う、実月の好きなカクテルだ。さっきから作っていたカクテルはこれだったのか。
古狼がシェイカーを振っていた時、まだ実月は来ていなかった――ということは古狼も、俺の番相手が実月だと察していたのだ。
サーヤも古狼もいつから気づいていたのか。恥ずかしくなってくる。
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