549人が本棚に入れています
本棚に追加
「ありがとうございます」
実月がハニーライダーに口をつけている間、古狼が俺に向き直った。
「流加。この保護協会クソガキに騙されないようにな。こいつ、甘い面しておいてやることエグいぞ」
「あー……うん」
エグいよね、知っているよ。さすがに言うことはできなかったので、心中で同意しておいた。
「お前のいない間、保護協会のバッジつけたこいつが何度も店に乗り込んできてな」
「実月、そんなことしてたの?」
「流加くん、誤解しないでくださいね。僕は調査に来ただけです」
「何が調査だ。しっかり証拠握りしめて乗り込んできただろうが」
実月の腹黒さを知ってしまったので想像がついてしまう。策士の顔をしてここにやってきていたのだろう。
「ねちっこく店を潰そうとしていたのに、今は興味がないときたもんだ――まあ、予想はつくがな」
言い終えて、古狼はため息を吐いた。
俺をちらりと見てから実月に言う。その声色から怒気は抜けていて、冷えたカクテルと似た、心地よいトーンだった。
「流加は解雇だ。こいつはカクテルすら作れないお荷物だからな、番にされたお手付き荷物を置く場所はねぇんだよ」
「そうですか。残念ですね」
「……白々しい。それが目的だろ?」
実月は薄ら笑みを浮かべて「どうでしょう」と返し、誤魔化すようにグラスに口をつけた。
重たかった空気が緩和されたことで、黙っていたサーヤが顔をあげた。
「流加、よかったね」
「サーヤ姐さん……うん、ありがとう」
「そこのワンちゃんもさ。流加のことよろしくね。それから、ありったけのエリートアルファをかき集めて私のために合コン開催してね」
俺たちを祝うのか欲望の垂れ流しなのかわからないな。姐さんらしいけど。
「ええ。でも合コンは――なるべく頑張ってみますが、エリートアルファの上司たちにはお相手の方がいらっしゃるようなので……」
それを聞いてサーヤが再びカウンターに突っ伏す。「あああ……なんでどいつもこいつも幸せになっていくのよぉ……」とぶつぶつ呟くのが聞こえてきたが、知らないふりをしておいた。
最初のコメントを投稿しよう!