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「僕たちはそろそろ帰りましょうか」
「代金はいらねぇよ。祝ってやる」
グラスが空になり、ウルフライダーの開店時刻も近づいていた。
俺たちを見送るためにカウンターから出てきた古狼が、扉の前に立つ。
そして俺の頭をわしわしと撫でた。
「ま、たまには顔でも見せろや。そこのクソガキもな。いつでもハニーライダー作ってやる」
「ありがとうございます。また飲みにきますね」
「おう。またな」
扉を開ければ、繁華街の空気が流れ込んでくる。鼻にツンと凍みる寒さも一緒に。
俺の居場所となっていたウルフライダー、古狼とサーヤ。その温かさを知っているから、振り返ってしまえば泣いてしまうかもしれない。
「流加くん、行きましょう」
俺の前には、大好きな人がいて、俺に手を差し伸べている。可愛い顔している癖に、腹黒だったりするけど。
手を繋げば、次の居場所はもっと温かいのだと教えてくれているようで、絡めた指先に力を込める。
離したくないと思うのは幸せなことだろう。
いや、きっと逃げられない。
「帰りにビール買っていきましょうか。観たい映画があるんです」
「また、ノンアルコールビール買ったりして」
「ありましたね、そんなこと。ちなみにあれは天然ですよ」
「……それは本物だったのかよ」
子犬になったり、策士になったり、かと思えば触手のように絡みついてくる。
でも、どんな実月でも好きだ。繋いだ手に幸せを感じてしまうほど。
神様のギャンブル・ルーレットが、落ちる。
そうして俺が支配したものは、運命の触手様。
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