1.こんにちはハニーライダー

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「さて。そろそろ店じまいだな」  飯を食べ終えて一服していると、古狼が立ち上がった。  店じまいと言いながら店はほとんど片づいている。客もくることはない。もう帰るから出て行けと、遠巻きに言っているのだろう。 「サーヤ姐さんは? すっかり寝ちゃってるけど」  あの後サーヤは顔をあげることがなかった。俺が飯を食べ終える頃には寝息が聞こえてきて、そのままぐっすりと眠っている。  古狼はちらりとサーヤの方に顔を向けて、それからため息を吐いた。 「仕方ねぇからウチに連れてく。お前は行くところあるのか?」 「あー……」  少し迷って、サーヤと古狼を交互に見る。  古狼の家は狭いから、サーヤを寝かせたらそれでいっぱいになるだろうな。 「大丈夫。友達の家に行くから」  嘘、だ。  俺に帰る家なんてないし、友達の家だって今日は埋まっている。サーヤがつぶれてなければ、古狼の家にお邪魔しようなんて甘いことを考えていた。  強がる俺に気づくことなく、古狼は「そうか、安心だ」とにっこりと微笑んだ。  こういう日もあるさ。金が入ったからネットカフェで寝てもいいし、面倒だったら公園のベンチで寝てもいい。昼間だから太陽が眩しそうだけど。
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