1.こんにちはハニーライダー

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 店を出ようとした時――ふと思い出した。 「そういえば、さ」  振り返った理由は自分でもよくわからない。ただ、気になった。 「俺が接客してた客……えーっと、子供みたいな顔をしたスーツの男」 「ああ、あのワンちゃんか」  名前はまだ覚えている。実月。  いつもなら客のことなんてその場限りなのに、名前どころか顔や声、頼んだドリンクまで頭に残っている。  俺が店を出た後、あいつはまだ飲んでいたのだろうか。それとも誰かを買っていったのだろうか。 「あのワンちゃんがどうした?」  古狼に聞かれて、俺は我に返った。  俺が出て行った後の話なんて聞いてどうする。ここはオメガとデートする店だ、あいつが誰を買うかなんて気にしちゃいけない。  どうせ、もう会うこともない。店に馴染んでいる様子もなかったし、二回目の来店はないだろ。  考えるだけ無駄だと結論を出して、「ごめん、なんでもない」と古狼に答えた。
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