2.やさしさに溺れて

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***  店を出て、深夜の繁華街を歩く。行き先は公園。アルコールが回った身体に秋の寒さなんて関係なし。静かな場所でじっくり考え事をしたい気持ちだった。  性ってのはその人物が持っている空気でわかる。だというのにどうして、実月だけは見抜けなかったのだろう。サーヤや古狼は俺よりも年上だから、経験の差なのだろうか――考えながら歩いていた時だった。 「流加くん?」  繁華街の香りも薄れた道で、誰かが俺を呼んだ。その声は店で聞いた、実月の声によく似ていた。  でも聞き間違いだと思った。時刻は深夜で、実月が店を出てから何時間も経過している。とっくに家に帰っている頃だろう。  実月だけでなく繁華街から人の姿は減っていて、すれ違う人なんてわずか。いたとしても酒の香りを漂わせている人ぐらいだ。  疑いながら振り返ると、そこにいたのはやはり実月だった。店にいた時と同じスーツにネクタイの色。終電前に帰ったと思っていたのに。  妙な違和感が生じ、俺はぽかんと口を開けて実月を見ていた。 「あ……ごめんなさい」  振り返ったものの何も語らない俺に、実月が慌てて頭をさげる。 「流加くんかな、と思ってつい……すみません、お仕事じゃない時に話しかけちゃって」  店の客と、勤務外で話すなんて滅多にない。だからか身構えてしまう。その緊張感は実月にも伝わっていたのかもしれない。  相手は客なのだから。そう言い聞かせて緊張を表に出さないよう、営業スマイルを浮かべる。 「驚いちゃっただけだから謝らないで。あんたはこれから帰り? 随分遅くまで飲んでいるんだね」 「会社の人に捕まってしまって、近くで飲んでいたんです。やっと解放されたので歩きで帰るところでした」  飲まされて、という割にはバーにいた時と変わらない顔をしていて、アルコールもそこまで濃く感じない。  さてはこいつ、童顔のくせに酒が強いのかも。
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