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そのままサヨナラすればよかったのに、アルファを見抜けなかった悔しさを思い出して、俺は実月の隣に並んでいた。
もしかしたら、次はどんな風に騙すのか楽しみだったのかもしれない。
「せっかく会ったんだしさ、途中まで一緒に行こうよ」
「酔ってフラフラしていたので助かります」
不安げだった実月の顔に光が戻っていく。その姿は犬みたいで、しょんぼり垂れ下がった犬の尻尾がぱたぱたと元気に揺れる気がした。
「家はこの近くなんだ?」
「ここから歩いて数分のところですね。ボロアパートでよかったんですが、上司にそれなりの部屋に住めって怒られてしまったので」
「ボロアパートって……アルファらしくないな」
「あはは、確かに。こだわりとか執着がないのでどんな場所でもいいんです。野宿だっていいぐらい」
「寝られるならどこでもいいや、ってやつ?」
「はい。横になれる場所があればそれでいいんです」
「俺も俺も。公園だろうが橋の下だろうが、気持ちよく寝られるならどこでもいいんだよね。俺、家ナシだからかもしれないけど」
気を許して、うっかり喋ってしまった。
俺が家ナシと言った途端、実月の眉がぴくりと動く。
「家なし……って、いつもどこで寝泊まりしているんですか?」
「普段は友達の家とかマスターの家とか。場所がない時はネカフェか公園のベンチ」
「そっか……今日は?」
妙な方向に話が流れている気がする。ごまかせばよかったものの、なぜか俺は素直に喋ってしまった。
「公園」
「ええっ!? それって危ないんじゃ……」
「へーきへーき。慣れてるから」
そう言って笑い飛ばすも実月の顔は不安に揺れていて、その視線が俺を案じていた。
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