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着いたのは公園近くのマンションだった。その公園によく世話になっていた俺は、明るい時間にそのマンションを見たことがあり、今時のお洒落な外観だなと思っていた。いわゆるデザイナーズマンションってやつだ。
中に入ると驚いたことに部屋は広い。独立したキッチンルームがあって、風呂とトイレは別。友達のワンルームしか知らない俺にとって、風呂トイレ別なだけでかなりの衝撃だったのに、リビングダイニングがあってさらに二部屋もある。とどめにベランダまでついているときたもんだ。
驚いて立ち尽くしている俺に、家の主こと実月が気まずそうに言った。
「僕があまりこだわらないから、上司が選んでくれたんです。ちょっと広すぎますけどね」
「いやいや、これ一人暮らしの部屋じゃないでしょ! 奥さんとか子供とかいるんじゃないの?」
「年齢的にはいてもおかしくないんですけどね。残念ながら僕一人なんです」
俺はまだ疑っていて、リビングから繋がる部屋を睨んでいた。ドアを開けたら奥さんが寝ているんじゃないの、なんて思いながら。
それは実月に伝わったらしく、睨みつけていたドアを開けた。
「この部屋を使ってください」
電気を点けても部屋に人の気配はない。小さな箪笥が二つと壁にクローゼット。それからホテルでしか見たことのないキングサイズのベッドが置いてあった。
キングサイズのベッドって、ヤり部屋ってやつ? ホテル代わりにここを使っているとか?
戸惑っている俺を無視して、実月が歩いていく。
「部屋のものは自由に使ってください。着替えも箪笥にあるやつを使って構いません」
「え……っと。俺なんかがそのデカいベッド使って、本当にいいの?」
実月が頷いたので、おそるおそる俺も部屋に入る。
躊躇いながら、薄汚れたボストンバッグを綺麗な床に置いて、ベッドに腰掛けた。
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