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野宿するかと判断したのは夜になった頃。
泊めてくれそうな友達は全滅。ネットカフェに行こうか迷ったが、明日の営業もわからない不安定な状態で財布を軽くする気にはなれなかった。
となれば向かう先は公園――なのだが、実月の家が近いことを思うと公園に向かうのも気が引ける。
別のところに行った方がいいだろうか。コンビニの駐車場に座り込んで、スマートフォンで地図を表示する。比較的綺麗で、交番が遠くて、ベンチで眠れそうな公園を探した。
秋の夜は少しずつ寒くなっていて。野宿はそろそろ限界かもしれない。
思えば実月の家は快適だった。あいつは普段からあの大きなベッドを使って寝ているのだろうか。
「あいつ小柄だから……持て余してそうだけど」
実月が寝返りをうつ姿を思い浮かべる。それでもベッドから落ちることはないだろう。抱き枕にしがみついているのが似合いそうだ。
浮かんだ実月の姿が面白くて、つい笑ってしまう。
「……流加くん?」
ふと聞こえた声に顔をあげれば、想像から出てきたかのように実月がこちらを見ていた。
ニット帽をかぶって、クリーム色と黒のボーダーセーターに、スエットのパンツ。端から見れば大学生にしか見えない男が目を丸くしている。
「わお。三日連続」
「ほんとだ。よく会いますね」
「なあに、買い物?」
「はい。ビールとおつまみを買いに。流加くんはここで何を?」
「俺は――」
野宿するための公園を探していたなんて言えずに口ごもってしまう。
実月と目を合わせれば見抜かれてしまいそうで、視線を逸らした。
「……あの、」
黙ってしまった俺に気を使ったのか、買ったばかりのコンビニの袋をガサガサと鳴らして、実月が言った。
「暇なら一緒に飲みませんか?」
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