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「好きなところに座っててください。用意しますね」
コンビニの袋をテーブルに置いて、実月がキッチンに引っ込んでいく。
手持ち無沙汰な俺は大きなテレビを正面に構えたソファに座り、リビングを見渡した。
ダイニングと繋がった広めのリビング。家にこだわりがないなんて言いながら、見れば部屋のあちこちにこだわりがある。柔らかいクリーム色のファブリックソファにナチュラルカラーのテーブル。ベランダと繋がった窓にはプランターがいくつも吊られている。よく見れば、テレビの横にもベランダの前に。どこを見ても観葉植物の緑色が視界に入り込んでくる。
「植物好きなの?」
ビール缶とナッツの皿を持って戻ってきた実月に話しかけると、実月は頷いた。
「はい。たくさん置けば、外にいる気がして落ち着くんです」
「外に……ねえ」
少し距離を開けて隣に実月が座る。それからカシュ、とビール缶を開ける小気味よい音が聞こえた。
お。もう飲み始めたのか。じゃあ俺も――と手を伸ばそうとして気づく。
「あれ、ノンアル買ったんだ?」
「え?」
「ほら、ここ。ノンアルコールって書いてある」
俺が指摘すると実月は目を見開いて缶を確認し、それから苦笑した。
「あ、はは……間違えちゃいました……」
「確かに似てるけどさ」
「他のもノンアルコールかもしれませんね……」
実月は立ち上がりキッチンに戻る。
冷蔵庫の開く音、それからため息が聞こえて俺は察した。
「……全部ノンアルだった?」
「全滅です。お会計の時に安すぎておかしいなとは思ったんですが、そういうことだったんですね」
「いやいや! そこで確認しようよ!」
間抜けな実月に笑いながら、俺もノンアルコールのビール缶を開ける。
アルコールなしなんていつ以来だろう。ウルフライダーに勤めてからほぼ毎日酒を飲んでいたからな。
ノンアルコールと言いながらも味はビールそのもので、違うのは飲んでも酔わないことだけ。味が一緒ならいいか、と俺は乾いた喉にビールもどきを流し込んだ。
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