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「あんた、ドジなところあるんだね」
「ドジじゃないですよ! これはたまたまです」
ソファに戻ってきた間抜けな男をからかってやる。ついでに今気づいてしまったものも教えておこう。
「へえ……じゃあ、そのスリッパの柄も?」
そう言って実月の足を指で示す。
左足は生成無地のスリッパを履いているのに、右足にはライトイエローと白のストライプ柄スリッパだ。無地と柄ありって随分違うだろ。どうやってこれを間違えるんだよ。
俺の指摘に実月は「あ!」と声をあげて、それから恥ずかしそうに玄関に走っていく。
戻ってきた時には顔が茹でたタコのように真っ赤になっていて、俺は笑ってしまった。
「わ、笑わないでくださいっ!」
「ごめんごめん、おかしくて。あんたってドジっ子なんだね」
「二十八歳の男にドジっ子なんて……嬉しくない呼び名です……」
ようやく落ち着いて、実月もソファに座り、ビールを飲む。
「……意外とビールの味がしますね」
「だよね。アルコールないのにビール飲んでる気分」
「二缶ぐらいならあっさり飲めちゃいそうです。これが無くなって買い足す時は普通のビールにしますけど」
まずいわけじゃない。美味しいんだけど物足りない。
ノンアルコールビールの物足りなさはまるで今の俺だ。この家は、居心地いいんだけど、ちょっとだけ落ち着かない。心のもやもやと向き合おうとすれば疲れてしまって、イライラしてしまいそうになる。
ビール缶を握る手に少し力を込めて発散させながら、実月を見る。距離を開けて隣に座った実月は、俺の視線に気づいて首を傾げた。
よし、気になっていたことでも聞いてみるか。
「あんた、恋人いないの?」
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