3.おともだち、友達

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 友達になりたい。そう告げた実月は少し恥じらいながらも微笑んでいて、幼い顔つきが合わされば汚れ知らずのピュアな生き物に見えてしまう。  それと視線を絡める俺は、酷く汚れて醜い存在なのだと炙り出されているようだった。  二日喋った程度の男を家に泊めて、自分はソファで寝て客にベッドを譲って――ここまでされているというのに俺は、アルファだからいつ襲われるかわからないと実月を疑っていたのだ。  惨めな気持ちになっていく。俺の心にくすぶる警戒心は、汚れの塊じゃないか。 「ともだち……か」  その単語は、知っているはずなのに遠く感じてしまう。夜の繁華街ではあまり聞かない、馴染みのない言葉だから余計に。  頭の中がごちゃごちゃする。この部屋の居心地がよくて、実月の隣にいると楽で、信じてしまいたくなるんだ。 「俺……さ、」  この空間に緊張が解けていたのかもしれない。実月に話したらどんな反応をするだろうかと気になって、封じていた記憶を呼び覚ます。  アルコールは入っていないはずなのに。ビールに似た味が俺の頭を酔わせていたのかもしれない。 「気づいているかもしれないけど、オメガなんだよね」  俺がそう言うと、実月は少し黙り込んでから頷いた。 「……はい。最初に会った時に、オメガなのかなって思いました」 「やっぱりわかるんだ」 「勘みたいなものですね。流加くんは可愛い顔をしていたので、もしかしたらオメガかなって」  顔で判断するのかよ、と言い掛けて飲み込む。  人のこと言えないだろ、俺だって、実月のことをアルファじゃないって顔で判断していたんだから。
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