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薄雲が流れて、涼しい風が吹いて――だというのに不思議と身体の熱が抜けない。今が楽しいからだろうか、それとも別のものか。
「流加くん?」
急に考え込んでしまった俺に気づいたのか、実月が心配そうにこちらを見つめていた。
「あ、いや……」
大丈夫、とは言えなかった。身体が重たくて、足元からずるずると熱いものに溶かされていく。
これはオメガだけの症状。
一ヶ月に一度やってくる発情期。この熱は、発情期の予兆だ。
ここにいたらアルファである実月に迷惑がかかるかもしれない。明日の朝イチで出て行った方がいいな。
身体はふらつき始めていて、俺は実月から離れた。
「ごめん、先に寝る。疲れちゃった」
「はい。部屋は前回と同じ場所を使ってくださいね」
あのキングサイズのベッドがある部屋だ。つまり実月は今晩ソファで眠ることになる。
申し訳ないと思いながらも、この体調不良でそれを遠慮する気にはなれず、ソファのことは知らないふりをしておいた。
「ありがと。じゃ、おやすみ」
ひらひら、と手を振ってベランダを出る。
リビングに戻って振り返れば実月はまだベランダにいて、あの綺麗な月を眺めていた。
発情期の予兆がなかったら、実月の隣に残って俺も一緒に月を見ていたんだろう。そう思うと寂しい気がして、振り払うように寝室に入っていった。
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