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このコースターには意味がある。この店が持つ裏の顔――デートクラブだ。
ドリンクを頼み、付属してきたコースターに丸印を書いて渡せば、デート可能なキャストのカタログをもらうことが出来る。そこに載っているのは、古狼以外のこの店にいる人間たちの顔写真だ。
気に入ったキャストを選んだら再びコースターに番号を書く。実月が宝箱だと例えた場所だ。それを渡せば契約成立。晴れて好みの人間と熱い夜を過ごせる。
だから宝箱の中身は、俺たちなのだ。
デートクラブといいながらやることは一つなので、食べられてしまうことは当たっている。
ウルフマークは可愛いものではない。むしろ傲慢で、金と社会の汚さをよく知っている。
間抜けなのは、あんたの方だよ。一杯目を飲み干す実月を眺めながら、声に出さず悪態をつく。
「流加」
そこで古狼が俺を呼んだ。
「指名が入った。頼むぞ」
「……あいよ」
アルファもどきの可愛い小型犬とお話をしている間に、俺は宝箱の中身になっていたらしい。
ちらりと見れば、カウンターの奥に男が座っていた。少し太ってはいるが、身なりはなかなか。着ているスーツはイタリア製。空気は――間違いない、アルファ。これは楽しめそうだ。
俺は、実月に挨拶をしてから控え室に引っ込んだ。
今日の内勤はこれでおしまい。あとはイタリアスーツのおじさまに熱い営業だ。
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