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2.やさしさに溺れて
常連になりそうな客ってのは話しただけでわかる。店の雰囲気に馴染む客であれば、デートクラブの顔を知らなくてもまた来てくれる。勘みたいな俺の常連センサーだ。
この常連センサーは実月に反応していなかった。初来店も大人の空気を求めて繁華街にあるバーに入った程度だと思っていたのだ。
それが、蓋を開けてみれば。
「流加くん。今日も出勤なんですね」
「うげ……」
俺のセンサーはいつの間にか鈍っていたらしい。
バーカウンターにはちょこんと座るミニチュアダックスフントもとい実月がいた。
遅刻して開店後に出勤してみれば、実月が座っているのだから驚くしかない。昨日と同じくハニーライダーを飲んで、楽しそうに古狼と喋っていた。
「流加、ちょっと頼む」
犬の散歩担当は俺になってしまったらしく、カウンターに入ると古狼は厨房に戻っていく。客も少ないから厨房でサボっているんだろうな。雇い主だから文句は言えないけど。
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