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立ち飲み屋なんて何年振りだろう。
そこは熱気に溢れていた。
アルコールによる火照りと焼き鳥を焼く炭火の熱、そしてここで疲れを癒そうと集う人々の声だ。
時折どっと沸き起こる笑い声、つい大きくなってしまう誰かへの不満、その全てを睨み付けて舌打ちをする音。
どれもを知っていたはずなのに、いつの間にか忘れてしまっていた。
ここに渦巻くものは、全部、私に向けられていたものと同じだ。そのことにもっと早く気付いていれば、失わずに済んだかもしれない。
私は今日、社長の職を追われた。ずっと信じてきた社員達に不信任を突き付けられたのだ。
一緒に会社を立ち上げ、共に大きくしてきた男が旗振り役だった。
私と違って、彼は役員になっても現場へ立ち続けていた。だからこそ口煩かった。もっと周りを見ろ、耳を傾けろと。
今思えば、現場でしか知ることの出来ない社員達の声を、私に届けてくれていたのだ。それなのに私は…。
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