眼鏡売りのハリス

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我武者羅だったんだ。 三十代で勤めていた会社を辞めて、借金をして、親に勘当されてまで始めた会社だ。 自分もあいつも、妻や子供にまで酷い我慢を強いって、最初の数年を乗り越えたんだ。 何度も訪れる苦しい時の中で、家庭を顧みることもなかった。私と家族の関係は冷え切り、あいつはその家族さえ失った。 だから!この会社を守りたかった…社員達がそんなことにならないように、路頭に迷わないように。 だが…。 私の悪い癖だ。社の安泰を願うあまり周りが見えなくなってしまった。 なにより守りたいと思った彼らの声を無視して、ただひたすら業績を気にして…。 その挙げ句がこれだ。元から信頼もなく、職まで失った男を妻はなんと言うだろう。息子は…… ああ、大学だけは卒業させてやりたいな。 そんなことを考えながら、日の落ちた町をフラフラしていた時、この立ち飲み屋を見付けたのだ。 まだ会社を立ち上げる前、大学の後輩だったあいつを毎週のように誘っては飲みに行った。 少ない小遣いからウーロンハイ一杯と、もつ煮か焼き鳥三本を奢ってやると、二時間は私の戯言のような夢の話につきあってくれた。 それが嬉しくて、その気になって…。 気が付いたら、私はカウンターでウーロンハイを片手にもつ煮をつついていた。 今もがやがやと騒がしい熱は、思い出よりも後悔ばかりを炙り出す。 堪らなくなって店を出たところで、突然、声を掛けられた。
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