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「住職さん、俺、もう帰りたいんすけど」
「ははは、まだ修行は始まったばかりじゃ、お連れさんは坐禅の筋もよい、子供とは侮れぬ集中力と無欲、お連れさんを見習ってもうちと精進なされよ」
「ムギュ・・・後何日だっけ住職さん」
「まだ今日で二日じゃの」
「えー、じゃ残り八日間も俺達二人だけかよ」
「いやいや、明日、一方お見えになられる、君らと同じ中学生の男の子じゃ」
{シメシメ・・・}
翌日、写経の時間に彼は来た。
俺達が入門の説明を受けた場所は謂わばこの寺の事務所の様な部屋で電話もあった。
上手くタイミングが会えば・・・
俺は学校の事でどうしても家に電話を掛けたいから電話をかしてくれと頼んだ。
「すいませーん、電話お借りしていいですか」
俺は江戸ジジイが居るのを見透かしてわざとらしくドアを叩いた。
「ん、どうなされた」
「いや、ちょっと学校の部活の連絡忘れてた事があったんで、おかんに電話したいんすよ」
「ほぅ、そういう事ならほれ、使いなされ」
ジジイが差し出したのは、今じゃもう骨董品屋の店頭でしか見かけない黒いダイヤル式の電話である。
ジジイは電話機を差し出しながら、俺に新入りの紹介を始めた。
「おぉ、マルくん、彼が今日から君達と修行を共にする澤田孝弘くんだ」
俺は孝弘に視線を移す。孝弘を初めて見た時の印象は・・・病弱でひ弱な・・・
フランケンシュタイン。
「あ、ども、マルです、中二っす、よろしく」
孝弘は、ジロリとガンをくれると軽く会釈をしただけで、まるでお前なんぞにはなんの興味もないと言わんばかりに黙殺である。
「マルくん、わしはこの書類を書き終わったら、孝弘くんを部屋にお通ししてくる故、電話が終わったら修行に戻りなされ」
「はーい」
俺はジジイの背中に返事をし、電話をかせと言った手前、電話を掛けないわけにもいかないので、用もないのにおかんに電話した。
ジジイと孝弘はまだゴソゴソと何かを書いたりしている。
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