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「なんやぁ!マル!!あれなんやぁぁぁ!!」
「た、孝弘・・って奴や、今日から来た・・・」
「な、何でここにおるねん!!」
「そんなもん俺が知るかい!おい!孝弘!お前・・・ここでなにしとんねん!」
孝弘はまた先程のようにこちらにガンをくれると、今度はそのまま・・・
無視である。
「ゴウラァァァ!、お前コラ!何様じゃ!」
ムカついた俺は孝弘に襲いかかろうとした。
「これこれ、居室で大きな声をだされるな」
すると、これまた何時の間にやら、気配すら感じなかったジジイが突然姿を現した。
「それ、孝弘くんは年頃も君たちと同じゃ、大人数のほうが修行にも張りが出るじゃろ。そういうことで同じ部屋を使うてもらうことにしたのじゃ」
ジジイは、嬰児も懐きそうな、その好々爺ぶりで俺たちに説明をする。
{油断ならねー・・・何処までもイージーなジジイやなぁこのジジイ・・・}
「それ、お楽しみの夕餉の支度が出来ておる、細かい話は腹を膨らませてからじゃ」
孝弘、俺、仲本、並んで膳につくと明らかに食事の内容に差がある。
孝弘の膳はお粥に塩昆布二枚、高野豆腐二枚、味噌汁。俺達はがんもどきにヒジキ、そしてなんと山女魚の尾頭付きがついている。
飯も今日は昨日より2割り増し、つまり、修行の内容に応じて体力が回復するようにメニューが決まっているのだ。
「あらー、孝弘かわいそー」
孝弘はソッコー食い終わると、しかし文句を言うでもなく黙って座っている。
「マルくん、仲本くん、実はな、孝弘くんは聴力に障害を抱えているんじゃ」
山女魚の骨と格闘していた俺と仲本は同時に顔をあげジジイの顔をみた。
「彼は小学生の時、幼い弟を連れて歩いていて交通事故に遭ってしまったんじゃよ」
ここのお寺、話しの進行上ジジイしか登場させてないんだけど、規模はかなり大きく、ひきこもり、不登校、家庭内暴力、薬物依存、こういった問題で悩んでいる人達を受け入れてくれる施設的役割までになっている。
日本の仏教が葬式仏教と呼ばれる中、寺院、宗教、それらの本来の役割を果たしている場所と言っていい。
孝弘は目の前で死んでしまった弟に対して自責の念に囚われているようだ。
孝弘の耳はその時から鎖されているという、決して耳に問題があるのではなく、孝弘の場合、心が音を聞く事、世界と関わる事をこばんでいるのだ。
「かわいそうに・・・」
仲本が哀れむような目で孝弘をみる。
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