6人が本棚に入れています
本棚に追加
「おい孝弘?お前、筆談は?手話なんかわかんへんぞ」
孝弘は呼びかけるとこちらをみるのだが、すぐさままた視線を逸らしてしまう。
「だからマル、聞こえてないんやって」
「んー…本人も不便やけど周りも不便やのう」
「部屋帰ったら筆談やってみようや、つか俺ら漫画描けるしな」
「そやな、漫画描いて、どっちが先に孝弘笑かすか勝負や!」
「マル?ギャグ漫画で俺に勝てる思とん?」
「アホか!たわけめ!笑いのツボは人それぞれなんじゃ!」
それから俺達は部屋に帰り、孝弘を強制的に審査員にして4コマ勝負を開始した。
しかし・・・撃沈。
グスリとも笑わねー。
孝弘は何を聞いても答えない。
仲本は、よく、こうも気長に質問したり、自分の事話したりできるもんだ。
俺はおかげで仲本の事をいっぱい知る羽目になってしまった。
親父が寝たきりな事、兄弟が四人も居る事、おかんがキッチンドランカーな事、弁当自分で作ってる事、生活保護受けてる事。
こいつ、頑張っとんねんな・・・
なすびみたいな面してよ。
貧乏ハゲって言って・・・
ごめん・・・
やがて俺達は諦めて布団にはいった。
グギュルルゥゥウゥゥ~
「どんだけデカいねん!」つーくらいに孝弘の腹が鳴っている。俺は隠して置いたスニッカーズを孝弘に差し出した。
「おら!孝弘!ギュルギュルうっさいねんお前!食え!」
孝弘はスニッカーズをちら見するも手を伸ばそうとはしない。
何かの野生生物の餌付けですかこれ・・・。
「おら!食え!なんやムキムキして欲しいんか?」
俺はスニッカーズの封を開ける。
途端に甘い香りが部屋中に広がる。
スニッカーズ如きがこんは芳醇な甘い香りを発するなんて、日常の生活の中では考えられない事だ。
如何に、ここの空気が混じり気のない純粋さを持っているのかが分かる。
俺は剥いたスニッカーズを差し出した。
孝弘の視線が・・・
スニッカーズに釘付けである。
最初のコメントを投稿しよう!