マルと仲本

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「おい孝弘?お前、筆談は?手話なんかわかんへんぞ」 孝弘は呼びかけるとこちらをみるのだが、すぐさままた視線を逸らしてしまう。 「だからマル、聞こえてないんやって」 「んー…本人も不便やけど周りも不便やのう」 「部屋帰ったら筆談やってみようや、つか俺ら漫画描けるしな」 「そやな、漫画描いて、どっちが先に孝弘笑かすか勝負や!」 「マル?ギャグ漫画で俺に勝てる思とん?」 「アホか!たわけめ!笑いのツボは人それぞれなんじゃ!」 それから俺達は部屋に帰り、孝弘を強制的に審査員にして4コマ勝負を開始した。 しかし・・・撃沈。 グスリとも笑わねー。 孝弘は何を聞いても答えない。 仲本は、よく、こうも気長に質問したり、自分の事話したりできるもんだ。 俺はおかげで仲本の事をいっぱい知る羽目になってしまった。 親父が寝たきりな事、兄弟が四人も居る事、おかんがキッチンドランカーな事、弁当自分で作ってる事、生活保護受けてる事。 こいつ、頑張っとんねんな・・・ なすびみたいな面してよ。 貧乏ハゲって言って・・・ ごめん・・・ やがて俺達は諦めて布団にはいった。 グギュルルゥゥウゥゥ~ 「どんだけデカいねん!」つーくらいに孝弘の腹が鳴っている。俺は隠して置いたスニッカーズを孝弘に差し出した。 「おら!孝弘!ギュルギュルうっさいねんお前!食え!」 孝弘はスニッカーズをちら見するも手を伸ばそうとはしない。 何かの野生生物の餌付けですかこれ・・・。 「おら!食え!なんやムキムキして欲しいんか?」 俺はスニッカーズの封を開ける。 途端に甘い香りが部屋中に広がる。 スニッカーズ如きがこんは芳醇な甘い香りを発するなんて、日常の生活の中では考えられない事だ。 如何に、ここの空気が混じり気のない純粋さを持っているのかが分かる。 俺は剥いたスニッカーズを差し出した。 孝弘の視線が・・・ スニッカーズに釘付けである。
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