マルと仲本

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仲本の貧乏は半端ねー貧乏でさ、一着しかない制服は生地がテッカテカで、袖も裾もつんつるてんに短い。 弁当も握り飯ばっか持って来るし、だから俺の弁当のおかずは、半分ぐらいあいつが毎日食ってた。 校外学習とか、遠足のおやつもあいつは持ってこないから、いつも俺達仲間が用意したもんだ。 それに加え、顔が茄子みたいに長くてよ、それが余計に貧乏くささに拍車をかけているのだ。 極めつけ、後頭部に十円ハゲあるしな・・・ 夏休みを控えた初夏の頃、そんな仲本が俺に言った。 「なぁ、マル、旅行、行かへんか、旅行」 「はぁ?旅行て?ど、どこへ行くねん」 「俺な、高野山に行ってみたいねん」 「高野山て、どこよ?」 「和歌山県やんか、弘法大師が開いた霊山や」 なんせその頃の俺なんて、弘法大師と空海が同一人物だと云うことすら知らなかったのである。 「弘法も筆の誤り」 なんて… 「高坊」、位の高い坊主でも、偶には失敗しちゃうんだぜって事だと、本気で信じてたもんね。 そんな俺が和歌山県の高野山なんぞに興味などあるはずがない。 「夏休みに一週間くらい行きたいねん」 「おぅ!んじゃ行こうぜ」 「マジか!マル!やったー」 俺は高野山なんぞには何の興味も無い。 無いんだけど、高野山なんてもんに興味のある、この仲本の気持ちの中に興味がわいたのだ。
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