マルと仲本

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「ささ、それではお部屋にご案内します故わしの後に」 どんな場所に案内されるのかビクビクもんだったが、なんと案外普通の旅館の様な部屋でポットや湯呑みなんかも準備してある。 なんや、ちょろいやんけ…と俺が思ったのも束の間、 「ささ、それではお荷物を点検の後、無用の長物は、還俗なされる日まで当方にてお預かりいたしまする、ささ、手荷物をこれに」 仲本は手荷物も何も歯ブラシ一本である。 「ほほぅこれは近年ご奇特な、それ、無用の長物なる言葉はの、その昔の修行僧に許された生きるに最低限必要な、十八の持ち物以外の物での、歯ブラシ一本とは、素晴らしい心掛けじゃ」  ジジイは仲本を絶賛した後、俺の鞄に視線を移した。 「ささ、次はその手荷物じゃの、これへだされよ」 「や…やだ(;゜ロ゜)」 「嫌では済まぬ、これはこのツアーのルール、決まり事ゆえにな、ささ、これへ」 このジジイ、言葉はやんわりだか言うが早いか俺のカバンを引ったくりやがった。 「ほほぉ、これはまた近年まれにみる不心得な、ありまするな、煩悩の種の数々が」 「ゴゥラァァアァ、仲本!持ち込み禁止なんて聞いてへんぞ!」 「じゃ禁止って言うたら、持って来んかったか」 「んなわけないやろ!もっと巧妙に隠してくるわい」 俺と仲本を交互に見ながら爺が笑い出す。 「わっはっはっおもしろい腕白坊主じゃ、これもまた近年奇特なり」 ジジイはそう言うと踵を返し、飄々と廊下の向こうに消えていった。
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