藤袴

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窓の奥のこれまた奥の方。静かに風に揺れる一輪の花があった。 藤袴だ。 秋の七草でもお馴染みの花。いや、今ではあまり見なくなったかもしれない。 散房状の淡いピンク色をした花を咲かせる、どこか儚い雰囲気を放つ秋の花。 本来は川の畔のような、湿ったところにしか咲かない花の筈なのに。 まさか、こんな家の近くに咲いていたなんて思わなかった。 ふと、先週のことを思い出し、奥の壁へと視線を向ける。 そこにあるのは藤袴を描いた水彩画だ。 突然、キャンパスと絵の具を欲しがった父が描き上げた絵画。それが隅の壁に儚く映えている。 今にも消えてしまいそうな淡く儚い花弁。それを支える細く折れてしまいそうな茎は、青々しさというよりも健気さという言葉の方が似合うだろう。 なるほど、急に藤袴を描き始めたと思ったら、こういうことだったのか。 取れかかっていた画鋲を直しながら、ふと自分の言葉に疑問を持つ。 この描かれた藤袴は、何故か儚いピンク色ではなく、鮮やかな赤色の花弁をしているのだ。そんな藤袴は見たことがない。父もそのはずだ。 それに、父は私と違って、昔から花になんて興味の無い人だったはずだ。 この父の考えは、どうもよくわからないな。 「……藤袴、かぁ」     
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