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秋の山。
紅葉が彩る鮮やかな世界は、いつも私を高揚させる。
さくっ、さくっ、
落ちた赤や黄の葉を踏むときの心地よい音が染みる。
秋の花たちが木々の隙間から顔を出し、ちらちらと見えるのがとても可愛らしい。
ミノムシを見つけては指でつつき、カマキリは手に乗せてにらめっこをしてみる。
オケラを発見した時は大当たりだ。手の中にそっと入れ、じたばたと指の間を掘り進めようとするオケラの感触を楽しんだ。
この山は良い。
ここを散策しているだけで、嫌なことを全部忘れられる。
少し山の道なき道を進むと、そこにはお気に入りの場所がある。
毎年、こうして山を探検するが、必ずここだけは足を運んでいた。
足元の花を避け、小枝をかき分け、木の根を踏み越え、奥へ奥へと入り込んでいく。
そこは、一面淡いピンク色の絨毯が広がる世界だった。
藤袴。
薄ピンクの束を茎の先につけた可愛らしい花。それらが咲き誇るとっておきの場所。
たしか、すぐ近くに小さな滝があるらしいが、そのせいか直径2mくらいの拓けたところに藤袴が群生している。
普段はあまり香りのない藤袴だが、ここは和菓子の甘味のような優しい匂いがした。
私だけの花畑。ここは私だけの楽園のような場所だった。
そんな風に、いつもみたく山で自然と戯れているときだった。
さくっさくっさくっ、
少し早足で歩く足音がした。
自然と、私は音のする方向に顔を向ける。
果たして、そこには8歳くらいだろうか、私よりも小柄な子供が、女の子がいた。
怒っているのか、少しむくれていた。それでいて不安げな表情で、キョロキョロと辺りを見渡していた。
突如、私の中で腰が抜けてしまうほどの強い熱を感じた。それと同時に胸の奥が捻られるような感覚が襲った。
しばらくして、女の子は私に気づくことなく、視界から去っていった。
私はというと、地べたにへたり込んで、喪失と安心の入り交じったモヤモヤした感情をはぁ、はぁ、と口から吐き出していた。
そして、そのまま日が傾くまで少女の去った方向を見つめていた。
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