ポケットにすら嫉妬する

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冬は人肌恋しくなる、というけれど、誰しもがそういう感情を抱くとは限らない。 と、俺は思っている。 「今日寒くね!?」 「それなー。初雪降るかもだってよ」 「うわ、まじかよ。どおりで寒いわけだわ」 さみぃさみぃ、と喚きながら校舎へ向かうクラスメート達を見ながら、そんなに寒いか?と疑問に思った。雪のよく降る地域で幼少期を過ごした自分にとって、11月が終わる頃の寒さは、そこまで厳しく感じない。むしろ、関東圏の寒さは、冬本番であろうとそこまで寒くはないな、というのが正直な感想だった。冬でもあまり手足が冷たくならないことも、そう思わせる要因かもしれない。 「……っくしゅ」 後方で小さなくしゃみが聞こえた。気になって振り返ると、首にぐるぐる巻きにしたマフラーにすっぽり口まで埋めた、クラスでもよく目立つ淡い栗色の髪のあいつが歩いていた。その他の生徒はまだかなり後ろにいる。どうやらくしゃみをしたのはあいつらしい。 じ、と見つめていると、視線に気づいたらしいそいつと目が合った。 「……あ?」 目が合った瞬間、眉間の皺を一層深くして短く威嚇してくる。野生の猛獣のようなその態度にも、半年以上一緒に学校生活を送った今ではだいぶ慣れてきた。 睨んでくるその視線を気にせず、思ったことをそのまま口に出す。 「お前でもくしゃみするんだな」 「あ"?するわ!ナメてんのか!?」 「いや…、普通に驚いただけだ」 「………チッ」 淡々と告げれば、くわっ!と噛みつかれんばかりに怒鳴られたが、悪意がないことが伝わったのか、それともただ単に言い合う気がないのか、盛大な舌打ちをされて会話は終了した。普段なら、もっと暴言を吐いたり、すぐに手が出たりするのに、今日はなんだか大人しい。 スタスタと歩いていく背中を追いかけ、隣に並ぶ。いつもなら「隣を歩くんじゃねぇ!」と怒られるのだが、今日はそれもなかった。変な感じだ。 ちら、と隣を歩くそいつの顔を盗み見る。マフラーで半分ほど隠されているが、僅かに見える鼻先は、ほんのり赤く染まっていた。時折、ずずっ、と鼻をすする音も聞こえる。 珍しいな、と思った。いつも不機嫌そうに眉を顰めているこいつは、不良のようななりをしながら実は頭も良く運動神経もいい。嫌いなものはたくさんあれど、苦手なものなどなさそうな顔をしているのに。 もしかして、寒さは苦手なのだろうか。
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