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その狼は、人を見れば襲い、血肉を貪る生き物だった。
ある夜、狼は薬草の群生地に佇む魔法使いを見つけた。
足音を殺し、背後に回り込み、今か今かと襲いかかろうとしていた。
その次の瞬間、満月の明かりよりも強い光が狼の眼前を覆った。
狼はとっさに目を閉じ、光が弱まったのをまぶたで感じ取ってから、目を開ける。
仁王立ちで怒りをあわらにする魔法使いが、そこにいた。
ふるふると体を震わせ、目を見開いて怒鳴りだした魔法使いに、狼は怯むしかなかった。
わたしは赤ずきんとその祖母の「知り合い」だ
なぜわたしがここに来たか、醜いお前にはわかっているだろう
真昼の間はヒトの姿をし、夜の闇の中でだけ狼に戻れる体にしてやった
お前とその子孫末代まで、この呪いは消えやしない
早口でまくし立てるようにそう言うと、魔法使いは狼のことなど振り返りもせずに去っていった。
取り残された狼は、小さくなっていく魔法使いの背中が見えなくなってから、その場にゆっくりと座り込む。
いくら魔法使いといえども、これから先の孫やその先の世代にまで受け継がれる呪いなど、あるわけがない。 狼は自分に、そう何回も何回も言い聞かせた。気分を落ち着かせるために。
だが怒りに満ちた魔法使いの言葉は、嵐が近づいた空のように、狼の心を曇らせていく。
そして、その呪いは現実となった。
呪いを受けた狼は、朝を迎えるとヒトの姿になり、同じ群れの狼たちから迫害された。
夜になり、狼の姿に戻れても、群れの狼たちは異質な存在となったその狼を受け入れることはなかった。
呪いは、数百年経った今でも健在である。
その狼の子孫は、昼間はヒトでありながら、夜は狼に戻るため、人里に降りて暮らすこともできず、今もなお森でひっそりと生きている。
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