1人が本棚に入れています
本棚に追加
「腹が減っては戦はできぬ、って言ってね、空腹じゃろくなことにはならないよ」
「めっちゃうまいっすね、このパン」
体を起こしてかぶりついたパンは、ふんわりと小麦のいい匂いがした。
「それ聞いたら、うちの母さんが喜ぶ……母さんには言えないか、あんた、狼だもんね」
赤ずきんは苦笑いしながら、むしゃむしゃとパンをおいしそうに頬張る狼を見つめている。
「あんたはいつも、こんなに腹ペコなの?」
半分呆れたような顔で、隣に座っている赤ずきんは尋ねる。
「僕は、狩りが……下手なんで」
「狼は一人で狩りする生き物じゃないしね」
狼がひとりぼっちだということは、知っているらしかった。
「僕が、怖くないんですか?」
「この状況なら私のが強いし」
赤ずきんの返答は正論だった。
「平時でも勝てない感じがします」
「だろうね」
「僕なんかを、助けて、いいんですか?」
「別に害及ぼされたわけじゃないし、あんたを見放す理由はない」
狼が質問ばかり投げかけているが、赤ずきんは簡潔に答えを返してくる。
「動物だったら、生物の食物連鎖の妨げになっちゃうから自然に任せるところだけど、ヒトだと助けないと社会倫理的にマズいからさ」
そう語る赤ずきんの瞳に映るのは、銀色の髪の青年だ。赤ずきんの瞳に映る姿を見て、狼は大事なことに気づく。
「あの、あんまり考えたくないことなんだけど、今、僕って裸だよね?」
狼は恐る恐る聞く。パンを握っている手は、紛れもなくヒトの手であったし、疑いようのない事実なのだったが。
「いや、今の今まで真っ裸ってあんたは気づいてなかったと? 鈍感すぎない?」
赤ずきんは全く動じていなかった。
「ああぁぁ……やだぁぁ無理ぃぃぃ恥ずかしいぃぃぃ!」
「そんなこと考える元気があるならパンツ探しなよ」
「パンツぅぅ! パンツはどこぉぉ!」
「その辺の葉っぱでも付けとけ!」
この赤ずきんはやはり短気だった。
最初のコメントを投稿しよう!