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「直球の質問をしちゃうんだけど、あんた、森から出ていきたくならないの?」
赤ずきんは、サンドイッチを食べるために敷いていた膝のナフキンを折りたたみ、カゴにしまう。そしてナフキンと入れ替わりに、消毒薬やガーゼを手際よく取り出して、机に手際よく並べた。
「僕がどんな生き物か、わかってる? ヒトならず狼ならず、バケモノだよ。
ヒトが、そんな生き物を受容すると思う?」
そう答えると、狼は左足の包帯を解いて、傷口の様子を眺めている。
抉れた肉が塞がろうと盛り上がり、治りかけの傷の最深部は瘡蓋になりかけたものが見えている。
「この部屋の本は、赤ずきんの絵本と、魔法や占星術とかの魔術本の類が多いけど、これはあんたの趣味?」
「君は他人の家の中をよく見てるね」
「エロ本があったら、向こう10年くらいはネタにしてイジれると思って探してたんだけど、全然見つからなくて、がっかりすぎる」
「動機が最低すぎるよ、赤ずきんさん」
絶対見つからないところに隠してるから見つからないよ、と狼は呆れながら付け加える。
「魔術本は、僕が集めたのもあるし、母が集めたのもあるよ。ヒトの姿してる時に町で収集するんだ」
へぇ、と相槌を打った赤ずきんは、狼の傷口に消毒薬を染み込ませた消毒綿を当てる。
傷口に瘡蓋状のものができてからは、消毒されるのはさほど苦痛ではなくなった。
「僕はね、森を出ることより、呪いを解くのが先だと思ってて」
だから、ありもしないだろう手がかりを求めた母と同じように、魔術本や呪いについての文献を調べている。
「私、昔から、赤ずきんの話の発端を検証しなおしたいと思ってて」
さっきまでの赤ずきんの話の取り留めのなさは、この話をしたいがためだったのだろう、と狼は思った。
「意味がわからないじゃない、この森では『赤ずきん』が何者よりも権力があるって構造。
そのせいで何代も何代も『赤ずきん』と『狼』が、同じ世界に閉じ込められてんの。誰にも利益ないのに、よ。意味わかんない」
意味わからない、を2回繰り返すところに憤りが見え隠れする。
「あんたはとても勉強家だし、こう言っちゃなんだけど暇だろうし、呪いの大元につながる話を検証できるかもしれないわけで」
狼の左足には、包帯が綺麗に巻かれていく。
「狼視点での『赤ずきん研究』、やってみない?」
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