赤ずきん研究 【10代目赤ずきん】

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「そこ気になる?」 青年は少し困惑した顔で、背中に座って揺れて負荷を掛け続けてくる娘を振り返る。 「犯罪はやった方が悪。やられた方を悪し様に言う神経は理解できない。このくだりは直して」 手にしていた数枚綴りのレポート用紙を、赤ずきんは青年の顔の前に突き出す。 「あのね、この体勢で僕が受け取れるとでも?」 背中に乗る赤ずきんは、痩せすぎず太りすぎず、あくまで平均的な体躯だ。しかし、普段は研究に勤しむばかりで慢性運動不足な青年の腕力では、片腕を動かしてレポートを受け取るのは至難の業だ。 「私が差し出すものを受け取れないって言うの?」 青年の背から跳ねるように降りた赤ずきんは、即座に右足で、四つん這いの青年の脇腹をぐりぐりと押す。 「わかりました、訂正します」 動かせるようになった(かわりに脇腹に嫌な痛みが走るようになった)腕で、赤ずきんの手からレポート用紙を受け取る。 「それよりも、私、あんたの見解が聞きたい」 赤ずきんは無表情で、青年の脇腹を強く踏む。 「僕の見解?」 青年は怪訝そうな顔で、ずり落ちそうになった眼鏡を押さえた。 「狼はなぜ、森で一人暮らしの独居老人を狙ったか」 踏みしめる足の力と比例して、赤ずきんの眼光も鋭くなる。 「あんたも『狼』なんだから、わかるでしょ」 蔑みも含んだ眼差しを送る赤ずきんに、狼と呼ばれた青年は、静かに笑いかけた。 「僕は、狼が犯人だと思ったことはない」 狼の、クツクツと低めの笑い声が部屋に響く。 「そんな老人、見つけたらその場でご飯にしてると思うから」
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