88人が本棚に入れています
本棚に追加
「失礼します。総務部から来ました、米倉です」
午後の仕事が始まったばかりで、どこかまだ、まったり感のある部屋に
声を掛ける。
そして、一斉に視線を向けられた未波を、
部屋の奥から、初老の男性が手招きしてきた。
「あぁ、米倉さん。待ってた、待ってた」
ゴマシオ頭に、黒縁メガネ。
昭和にタイムスリップしたような容貌の男は、
歩み寄ってきた未波を、ニコニコと迎える。
「ようこそ、メール室へ。課長の矢代です」
そして、荷物は適当に置くようにと言ってくる。
しかし、私物の中には貴重品も入っているし、
やはり自分の居場所に置いておきたい。
だから、「よろしくお願いします」と挨拶に続いて、
未波は当然の事を尋ねた。
「あの、私のデスクはどこでしょうか?」
ところが、彼女の問いにちょっと目を瞠った昭和課長は、
いきなり声を上げて笑いだす。
「ここの仕事はね、1日の大半を立ってるからね。
個人のデスクは無いんですよ」
最初のコメントを投稿しよう!