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だが、生まれて初めての大きな失恋の衝撃が大きすぎたのか、
フラれた時は、悲しむよりも、未波の頭も感情も呆然と空白になっていた。
しかし、それからしばらく時が経つと、
やはり無性に寂しさと虚しさが募ってくる。
そして、もう手の届かなくなった温もりが恋しくて、
何度も彼を迎えたこの部屋がやけに冷たく、無機質に感じられる。
そんな時に目にしたのが、小さなガラス鉢に植えられたポトス。
中心の緑を、白色が囲む雫型の葉。
それが数本、ハイドロカルチャーと呼ばれる茶色いビーズ玉のような物に
植えられていた。
しかし未波は、特別、植物が好きというわけではない。
それでもこの時は、なんとなく、その丸いガラス鉢を手にしてみた。
すると、ガラスのひんやりした感触が手の中にあるにも関わらず、
柔らかそうな葉から、微かな命の温もりが伝わってくる。
同時に、寂しさで隙間の空いてしまった心を優しく包まれる感覚を、
ふんわりと味わった。
だから、再び自分以外の命の温もりを部屋に招き入れたその夜、
未波は、久しぶりに安らかな眠りにつくことが出来た。
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